現代の日本は、ニュースで取り上げられるほどに医師不足が深刻化しています。正確には、医師の数は過去最多と言われるほどに増えていても、大都市にばかり集中して、地方医療が成り立っていないのが実情です。医師数が少ないのではなく、医師がいる地域にばらつきがあるのです。
日本の「医師不足」は、「病院勤務医の不足」と言い換えることができます。勤務医は、開業医に比べて収入が少ないです。そのため、医師の数自体が増えても、収入が多い開業医に流れる方が多く、これが勤務医の不足を引き起こしています。
では、病院勤務の医師が不足すると、どうなるでしょうか。答えは、医師に診てもらえない患者が増えるか、1人の医師の負担が増えるかの2つです。
前者の場合、特に救急患者受け入れへの影響が顕著です。実際に、医師の数が足りず、処置が間に合わないという理由で病院をたらい回しにされ、命を落とした救急患者の例があります。
後者の場合、医師の労働環境に影響が現れます。具体的には、長時間労働を強いられるということです。中には、1日の24時間を超えて、32時間連続の勤務を行っている医師もいました。これでは患者の診察・治療にも、いずれ影響が出てしまうでしょう。
病院勤務医が足りていない理由の1つは、こうした過酷な労働環境にあります。特に、医師不足が深刻と言われている小児科や産婦人科などは、勤務の過酷さから医師がやめてしまい、医師不足に拍車がかかっています。結果、診察・治療を受けられない患者がさらに増え、残っている勤務医の負担も大きくなります。
では、全国的に病院勤務医が足りていないかと言うと、そうではありません。最先端の医療技術があり、且つ多くの情報が溢れる都市部には、医師が集中しています。また、同じ都道府県内であっても、地域によって医師の数は偏っています。
たとえば、医師がもっとも少ない埼玉県では、満足に患者の対応ができない北部地域に対して、東京に近い南部地域には医師が充足しているというデータがあります。また、医学部を持つ大学が多く、医師の数が多いと言われる大阪府も、一部地域では医師の数が足りていません。実際にこのサイトでも、大阪府の常勤医師をターゲットにした多くの求人情報が掲載されています。
医師の数が偏っているのは地域だけではありません。診療科によっても、医師が必要数に達している科と達していない科があります。中でも、ハードワークで訴訟リスクが高く、スキルアップの時間が作りにくい産婦人科、小児科、麻酔科、救急科、整形外科などで、医師は不足しています。
医師不足改善の根本的な解決には、国や自治体の補助が不可欠です。病院勤務医や特定診療科の報酬を引き上げ、労働量に見合うようにしたり、勤務状況を見直して、過剰な労働による医師への負担を軽減したりして、勤務医の数そのものを増やす必要があります。医師が不足している地域への人材派遣も重要です。
また、1人でも多くの医師が病院勤務を継続し、都市部ではなく地方での就業を選ぶことでも、医師の偏りは改善されます。医師自身の生活もありますし、労働環境が過酷と知っていて、そんな職場への勤務を決めるのは簡単なことではありません。ですが、現在転職を考えている医師の方がいたら、地域や診療科によって医師が偏在していることを念頭に置いて転職先を探すことで、医師不足改善の一助になることでしょう。
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